オレは今、車を走らせて熊本県に向かっている。出発は長野、途中、岡山県に住んでる彼女の家に一泊させてもらいながら向かう予定だ。高速代をケチって下道で向かうもんだから、予想外の渋滞にハマってしまい、今日中に彼女の実家には着けそうにない。初めての彼女の実家訪問であるにも関わらずこのありさま。自分の無計画さにあきれ、恥ずかしい気持ちでいっぱいになる。まったく、オレはなんだっていつも大事な時にこういうミスをやらかすんだろう。

 「オレがどうして今言ったようなことを知っているのか、不思議かい?ところで、もうひとつオレが言いたいことがある。それは、宇宙の扉を開き、地球を助けるためには、オレのように実際に秘密の鍵を見つける必要はないということさ。かわりに、使い方さえ知ればだれにでも使える道具がある。それは、『物理学』という道具だ。これさえあれば、まわりの宇宙を理解することができるようになるのさ。」

 T、これも全て、お前のせいだ、なんて言ってみたところで、何も始まらないのはわかっている。『物理学』か。なぜ今、このタイミングでTのそんな話を思い出したのか分からないが、どうやらオレには、『物理学』という道具の使い方の勉強が足りたないないらしい。だから同じミスを何度も繰り返すんだ。オレは自分に、そんな屁理屈を言い聞かせることで、なんとか平静を保っていた。

 「もちろん、将来住むための別の惑星を探すこともできる。でもそれは簡単じゃない。地球の近くには、住めるような惑星はない。どこかに地球のような惑星があるとしても、それはずっと遠いところだろう。宇宙のどこかに新しい惑星や新しい世界を見つけようとするのもワクワクすることだ。でも、オレ達が戻って来たいと思うのは、やっぱり地球なんじゃないか?オレ達は、100年先にも、まだ戻ってこられる場所として地球が存在しているようにしておかなくちゃならないんだ。」

 彼女の実家の最寄りのガソリンスタンドに着いた。時刻は朝の4時。彼女も、彼女の両親ももうとっくに寝てしまった。オレは車の中で朝を迎えることになる。寒くてねむれない。自業自得だ。彼女にも、彼女の両親にも、心配と迷惑をかけてしまった。どんな顔をして、はじめましてのご挨拶をしたら良いんだろう。オレはもう、色々な意味で途方に暮れていた。もっと『物理学』の勉強をしていれば、なんて自分一人でボケてみたところで、誰がツッコんでくれる訳もなく、余計虚しさはつのるばかりだ。

 「オレたちの地球はすばらしい惑星だ。そんな地球がオレたちのものなんだ。オレたちは、全員が地球と同じ材料でできているのだし、地球のめんどうをちゃんと見る必要がある。オレの父さんは何年もの間このことを言い続けてきたけど、オレはそのせいでいつもきまりの悪い思いをしていた。自分の親が、ほかの親とは違うのが気になったんだ。でも、オレの考え方は変わった。地球を汚すのをやめようと言っている父さんは正しいと、今は思っている。オレたちみんなが、もう少し努力できるはずだと父さんが言っているのも、その通りだと思う。今は、地球のようにかけがえのない美しいものを守ろうとしている父さんを、オレは誇りに思ってる。」

 時刻は朝の7時。目を覚ました彼女とLINEがつながり、オレは彼女の実家の方へと車を走らせる。適当な言葉も態度も見つからず、オレはまず、彼女のお母さんと初めましてのあいさつを交わす。まあ、こういうパターンも考えていたわ、意外といえば意外だったけどね、なんていう感じで、少しほっとするような、もっと恐縮してしまうような、そんな気持ちになった。とにもかくにも、お家の中に入れてくれるだけでありがたいことだと思いながら、オレは彼女の部屋に転がり込んだ。彼女は勉強熱心な人で、久しぶりに会ったオレのことはほっといて、オンラインでのドイツ語の勉強をはじめた。オレと彼女の間ではこれはいつもの光景で、ちょっとふてくされながら本を読みはじめるのがいつものオレなのだが、このに限ってはオレにふてくされている余裕もなかった。彼女のドイツ語の発声練習の声を子守唄に、オレは深い眠りについた。

 3時間程眠って、彼女のドイツ語の勉強にも区切りがついたところで、近所のお城に2人で桜を見に行った。彼女のお母さんがその場所までオレと彼女を車で送ってくれた。後で彼女に聞いた話だが、彼女のお母さんはオレのことを、「あの子、悪い人じゃないみたいだけど、どうやって生きていくのかしらね。」なんて言ってたそうだ。そのことをTに話したら、アイツは何て言うだろうか。そんなことを考えていたら、急に笑いがこみ上げてきた。やっぱりお前は有機農業やるしかねえよ。オレの中のTが、偉そうにオレにそんなことを言ってきたから。

 「オレはとてもラッキーなことに、宇宙の扉を開く秘密の鍵を見つけた。この秘密の鍵のおかげで、オレたちのまわりを取り囲んでいる宇宙について、いろいろな発見をすることができた。そこでオレは、自分が学んだことの一部をお前にも伝えようと思う。それは、オレたちがどこから来たか、何がオレたちを作ったのか、何が地球や太陽系や銀河や宇宙を作ったのか、ということにもかかわっている。そして、オレたちの未来にもかかわっているんだ。

 オレたちはどこへ行こうとしているんだろう?この先何世紀もオレたちが生きのびていくためには、何が必要なんだろう?」

 2024年1月24日

Follow me!

カテゴリー: 晴太郎の窓愚痴

PAGE TOP