「おーい、空や。そろそろ日が沈んできで寒くなってきたけど何か羽織るものいるか?」

 「ああ、雲や。そいつは助かる。ちょうど身体が冷えてきて困ってたところだったんだ。」

 ある初秋の夕暮れ、空と雲のお話しする声が聞こえてきます。まだ空は青さを残している時間です。今日はもう月が見えていて、雲がたくさんある方が半分、太陽に照らされて、ぼんやりと白く光っています。

 「空、お前は一日中真っ裸で海と張り切って青く青く遊んでいたね。」

 「ハックチュン…ああ、今日は濡れたなあ。それに、あんまりにも暑いから汗だくだくで、いっぱい雨降らしちゃったな。ちょっとはしゃぎ過ぎてか、セミが怒ってたなあ…」

 「そんなのいつものことなんだから今さら気にしてどうする。それに、セミの奴らはじめは雨が降ってライブが台無しとかわめいていたけど、一匹のカマキリが、雨でも降らんと野外でやる意味がなかろう、なんて言ったもんだから、結局いつも以上に盛り上がっていたぞ。奴らにとっては人生最後の、最初で最後の大舞台だからな。」

 「いいなあ。俺も歌いてえなあ。この青さを歌にして思い切り叫びたい。ああでも俺は声が出せないんだ。叶わない夢なのかなあ…。」

 「そんなことないぜ。皆お前のことを見て、無限の可能性を感じたりしているんだ。そんなお前に、できないことなんてあるもんか。」

 「そうかなあ。皆俺じゃなくてその先に広がる宇宙を見て、無限の可能性を感じてるんじゃないかね。俺なんてただの空だよ。青かったり、どんよりしたりするだけの存在さ。」

 「バカなこと言うな。そんなお前が俺は好きなんだよ。だから、お前の一番近いところで一緒に歩いてきたし、これからもそうするつもりさ。ハイジだって言ってただろ?クララ、あなたなら絶対に出来るって。」

 「俺はクララじゃないし、お前はハイジでもない。そういう説教はもううんざりなんだよ。お前ならできるなんて無責任なこと簡単に言うな。お前に俺の何が分かる。」

 「俺はお前のこと全然分からないよ。俺はお前に近すぎて見えてないことが山ほどあると思う。でも俺はお前のこと見てる奴らのことを知っている。お前のことが大好きな奴らのことをな。そいつら、お前がいるから、大空があるから大丈夫だあ、なんて歌ってるんだぜ。俺はそれをきいて泣いた。そっか、大丈夫かあって思えたんだ。」

「大丈夫な訳あるもんか。俺は歌えないんだぜ。声が出せないんらだ。絶望だよ。夢に挑むことすらできない。一生、空のままで終わっちゃうよ。」

 空はしゃべりたいだけしゃべると疲れ切って雲が持ってきた夜の布団をかぶって眠り始めました。そのねむりが深くなればなるほど、闇は深まり、星も輝きを増していきます。

 「ああ、今夜の星はいつにも増して綺麗だなあ。まるで、空が歌ってるみたいだよ。」

 どこかでそうつぶやく声を聞いた雲は、空の寝顔をそっとのぞきこみ、しばらくじっと眺めていました。

 「くう〜もう。これだから俺は空の、お前の隣にいることを、雲でいることをやめられないぜ。こんな時には風邪だって食うもん。」

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カテゴリー: 晴太郎の窓愚痴