「5年後、同じ時間にここでまた会おう」

 とある夕日の見える3方を山で囲われた海岸で僕は僕にこんな約束をしました。その時の僕は19歳で、大好きだった彼女にふられて1人その海岸に来ていたのです。こんなにもこんなにも涙を流したとはそれまでありませんでした。季節は寒かった冬がおわり温かい春を感じさせるような空気です。海にはほとんど人影はありませんでした。悔しかったのか寂しかったのか悲しかったのか、そのどれもが当てはまるようで当てはまらない、混沌とした気持ちに押し潰されそうになって、そうはさせないぞと身体がゆるんで涙にして流してくれていました。涙には、命を守るという役割もあるのかもしれません。漢字で書くと、水と戻る。水に流して元に戻す、ということでしょうか。気持ちを、フラットな状態へ、マイナスから0へと。逆に盛り上がり過ぎた時には、嬉しすぎる時には、プラスから0へと。そしてながしきって0へと戻る時、笑いが起きる。そんな気がして、海の向こうを眺めたら今日の夕日はまた一段と胸が熱くなるような、真っ赤な夕日でした。

広がる海の右奥の方には、富士山の上の方が赤く染まってそこから横へと少しずつ登りながら伸びていく雲がまるで龍そのものです。天まで届くというよりは天と地の間をどこまでも泳いでいくような気配で、少しずつひろがっていきます。波の音と、雲の音の間を、どこまでも歌っていくような気配で、少しずつハーモニーになっていきます。

 5年前の19歳の時には一人で来たけれど、5年後の今回は大好きな人と一緒に来ました。季節は夏の終わり。海岸沿いには海の家が建ち並んで大人から子どもまでたくさんの人が集まって来ています。彼女は僕の隣で寝転がり、そのまま寝てしまいました。波の音に、空の色にリラックスしたのか、ちょっと呼びかけたり、とんとんたたいたくらいでは目を覚ましません。深く眠っているみたいです。僕は僕で、波の音に心地良く身体をゆすられて、海を眺めながら、風の中に溶けてしまいそうな、不思議な気分でした。

 五年前のあの時の僕は沈む夕日を眺めながら自分の人生を決意し、目が覚めるような気持ちで海岸を後にしました。五年たった今、僕は沈む夕日を眺めながらその時の決意に祝福をして、眠るような気持ちで海岸を後にしました。1日のうちで眠って目覚めて、の輪があるように、人生にも眠る時と目覚めるときがあるのかもしれません。

 起きてる時は人間としてほんの少し大地の民として眠る時は大地の民としてほんの少し人間として僕は夢のど真ん中にいるの世界に追い詰められてもうこれ以上は逃げられない僕は夢のど真ん中にいる。

Follow me!

カテゴリー: 晴太郎の窓愚痴