「あー、みてみて、母さん、月が座ってる!」「さあさあ歩太、そんなことは良いからさっさと畑のごはん、もらっていくよ。」「うーん、あっちにも走っていけたらなあ。なんだか、キレイで美味しそうだよ。」

 ある晴れた、月のよく見える夜、鹿の親子が畑にやってきまきた。なんとなく、おいしそうな匂いがするのでここまできてみたのですが、どうも食べられそうな野菜が見当たりません。それに、ここの畑は他の畑とは様子が違い、子どもの歩太は楽しそうにしています。

 「みてみて、母さん、何だか畑に絵が描いてあるみたいだよ。おもしろいなあ。これはいったい、何を描いているんだろう。」「何を描いていても良いんだけどね。しっかり野菜を育ててもらわないと、私達は困っちゃうんだからね。ここの畑の人間はなまけものじゃないかしら。」

 アウォオオオオオ…

 どこか遠くから、何かの声がきこえてきます。とてもとても、小さな声です。今夜は月が明るく、夜の畑を煌々と照らしています。

 「それにしても、オオカミさんはどこへ行ってしまったのかしら。大神、大神、なんて大切にしていた人間もいるみたいだけれど、結局皆、人間が追いやってしまったのよね。詰まらないことをしたわ。」「そうかな、母さん。僕、幸せだよ。」「そう?歩太。」「うん、だって今が、こんなに楽しいんだもん。」

 そう言うと歩太は、元気に畑ではしゃぎまわります。くるくる回って、トコトコ歩いて、ドスンと座って。

 「あ、母さん、ここから良い匂いがするよ?みてみて、米ぬかが土にすき込んである。これ、大好物なんだ。わあい、いただきます。」「ここの畑の人間、少しはまともに働いているみたいね。」

 アウォオオオオオ….

 どこか遠くから、何かの声がきこえてきます。とてもとても、小さな声です。相変わらず月は明るく、畑と鹿の親子を煌々と照らしています。

 「みてみて、母さん。米ぬかのあるところに、ここの畑の人は種をまいていたんだね。野菜が育つまで、待ってた方が良かったかなあ。」「きっと大丈夫よ。ここの畑の人間がなまけものじゃなければ、また、畑を整えて、しっかり育ててくれるわ。それにしても、不思議な種の配置をするのね。これはまるで….。」「オオカミだよ、母さん。これはきっと、オオカミだよ。僕、図書館で借りた”畑の星座”って本で見たことがあるよ。これは絶対、オオカミだ。うわあ、はじめて本物見るなあ。」「こんなところに、畑の中で種に姿を変えて、こんなところでひっそりと暮らしていたんだね。」

 アウォオオオオオ….。

 どこか遠くから、何かの声がきこえてきます。とてもとても、小さな声です。月は、さっきよりも明るく、畑と鹿の親子を煌々と照らしています。

 二匹は揃って空を見上げました。そして、星なんてひとつもないような満月の夜空に、先程土の中に見た、畑のオオカミとまるでそっくりの星座が、ほんの一瞬、光り輝くのを見たのです。

 「母さん….すごいや….。まるで鏡みたいだよ….。」「そうだね….。大神は、銀河の中にも生きていたんだね。」「ねえ、母さん。空と土って、どっちが大切?」「そうだね….それはきっと、間の、愛だろうね。」「ハハッ!意味わかんないよ。でも、何か笑えるね。」「ふふっ。そうでしょ。笑えるって、とっても素敵なことよ。」

 アウォオオオオオ….。

 どこか遠くから、何かの声がきこえてきます。とてもとても小さな声です。相変わらず月は明るく、畑と鹿の親子を煌々と照らしています。

 「そうだ歩太。ここの畑の野菜が元気に育つように、祈りの鹿踊りを捧げましょう。」「良いね母さん、やろうやろう。」

 はじまり座はじまり座君の名前ははじまり座すくすくのびのび真っ直ぐ空へ。

 二匹の影が、畑に踊ります。

 はじまり座はじまり座君の名前ははじまり座すくすくのびのび真っ直ぐ土へ。

 二匹の足跡が、畑に踊ります。

 次の日の朝、畑に人間がやってきました。「おっと、ぬかをまいたところが荒らされてるな。鹿にやられたか。フンまでしっかり置いていったな。まあ、しょうがね。ひとまずここは、そのままにしとくか。」

 人間はギターを取り出し、昨日つくった歌をさっそく種と畑にきいてもらおうと、歌い出しました。

 はじまり座はじまり座君の名前ははじまり座すくすくのびのび真っ直ぐ空へ。

 こうして、土の上では、音が一日中流れているのです。そして、向こうの空では、時が一日中流れていることでしょう。

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カテゴリー: 晴太郎の窓愚痴