「話、聞いてる?」
「うん、聞いてるよ。」
「ウソ。本当は全然聞いてないでしょ。」
「聞いてるってば。」
畑に植えられた二本の玉ねぎが、お話をしています。まだ、植えられて2,3日しか 経っていないうえに、ここのところ、朝がとても寒いからでしょうか。しょんぼりとした立ち姿に見えますが、よくよく聞いてみると、とっても元気のよい声で話しているのが聞こえます。
「こうちゃん、それなら私がなんて言っていたのか、こうちゃんの口から聞かせてくれる?」
「つまり、昨日見たアリの身体の色がとってもきれいで感動したってことだよね?」
「うん、そういうことなの。胴体は、少し控えめな、お日様みたいな色だった。そして、ブルーベリーに、この土の色を混ぜたような色の頭からは触覚が伸びていて、見えない何かに触れながら常に動いている。それを見ていたら、とってもワクワクしたわ。」
「それは、とても心躍る話だね。僕はすっかり見過ごしちゃったな。」
「私、アリを見るのに夢中で…。こうちゃんに、伝えてあげればよかったね。」
「うん、でもね、僕は僕でその時、僕らの真上にある空を横切っていくアイツを見ていたんだ。ここからは、そいつはとても小さく見えた。とても長い距離を移動してきたらしい。そう感じさせる、身体の使い方だったんだ。鳥や、虫とも違う。まるで、風そのものだった。でも、風ではないんだ。ハッキリとそいつは、生き物だった。おそらく、何千年も前から、旅を続けているんじゃないかな。よくよく耳を澄ませてみると、そいつの翼なのか、羽なのか分からない何かが、風に触る音が聞こえた。」
どどん どどどん どどどん どどん
「僕は根っこの先からそいつを感じた。耳より先に、土から感じたんだ。力みのない、圧倒される音だった。」
どどん どどどん どどどん どどん
「いつまでも聞いていられそうな音だったけれど、アイツはどんどん遠ざかっていった。僕の根っこが足になって、アイツについて行けたらなあと思ったよ。それからさ。アイツはもう、どこかへ行ってしまったはずなのに、アイツの残した音が鳴りやまないんだ。土が、音を保有してくれているのかなあ。不思議だよ。今もほら、根っこから伝わってくる、アイツの音が聞こえないかい?」
どどん どどどん どどどん どどん
「ああ、ほんとね。私にも聞こえる。根っこから、確かに聞こえるわ。」
「そうなんだよ。土ックンロールは鳴りやまないんだ。」
ある日、いただきアースの畑に奨君と植えた玉ねぎを眺めながら、妄想していたお話。
それにしても、どうしたもんかなあ。
あの日から僕の中ではずっと、土ックンロールが鳴りやまない。